4.「自分から繋がれよ」
「真っ昼間から何をそんなに盛っている仲達。」
そう言ったのは豪奢な椅子に座っている曹丕。
いかにも退屈そうだと頬杖をつきながら司馬懿を見やった。
下は何も身に付けず、蜜だけがしたたっている司馬懿。
魏の軍師とは思えぬ姿である。
「ーっ、曹丕様が変な薬を飲ませるからこんな事になっているのです
責任を取って頂きたい。」
そう、この状況の原因は曹丕が司馬懿に飲ませた飲み物にあった。
軍議中に出されたそれは司馬懿のものだけ媚薬入りだったらしく
ご丁寧にも曹丕は司馬懿に耳打ちしてその効能を教えたのだった。
喉の渇き、発熱、そして催淫―――。
諸公のいる中、司馬懿はその体を気付かれぬ様にするのが大変だった。
それなのにー
「くっ。あの言葉を鵜呑みにしたのか仲達。
あれには何も入っていない。皆同じ物を飲んでいたのだからな。」
意地の悪い笑みが曹丕の口元に浮かぶ。
「以前飲ませてやった媚薬がそんなに良かったのか?
ならばまたお前の為に取り寄せてやろう。」
今でも脳裏に焼き付いているその快楽ー。
体は『媚薬』という言葉を鍵にしてその記憶を体に呼び覚ましたようだった。
何とも因果なものである。
「下劣なー。」
そう一人ごちた司馬懿は、自分よりいくつも年下の君主を見た。
「自分から繋がるのだな仲達。」
策略に満ちた甘美な命令であった――。